ポタリング のインデックスページへもどる ポタリング の ページ      Top Pageへ移動Top Pageへ移動             このページを閉じる 閉じる

2012.09.23
メンテナンス・交換 レストア

カメラ;
 RICOH CAPLIO GX−100 24−72mm F2.5
 iPhone 4S
 (画像添付時に約30%程度に圧縮)



 友人Tの愛車、GIANT社の「CADEX(キャデックス)」は、大分年季が入った代物だ。フレームからは当時の艶がすっかり失われてしまっているし、パーツ部分もまた埃にまみれている。

 その車体はすっかりと色あせてしまい、今では見る影も無い、実に嘆かわしい状態に変わり果ててしまっている。

 しかし良く観察すると、そこに利用しているパーツの素性はよいもので、フレームを購入してそこから思い通りに組み上げたオーダー車として、当時の性能として一流の水準を目指したものだった事が判る。

 経年劣化のためか、どこもかしこも、全体にくすんでしまっているのが残念極まりない限り。だが、その構成は今もって素晴らしいもので、手当てによっては充分に輝きを取り戻すものと思えるのだ。

GIANT社 CADEX 変更後の車体の様子
  「CADEX号(キャデックス)」 GIANT社製  <89年当時の最新鋭モデル  ;作業後の完成形 >
ページTopへ移動
 なにせそのフレームの主要素材はクロモリ(クローム・モリブデン鋼)やアルミではなくカーボンなのだ。もちろん、言うまでも無く「カーボン」は今でも最先端のフレーム素材である。

 懐かしき80年代の終端にあって、それははまさに先鋭の素材であった。

 しかしカーボンを使ったフレームを導入しているにもかかわらず、この「CADEX(キャデックス)」という名前を持ったGIANT社の戦略モデルは、いまどきは滅多に見られなくなってしまったホリゾンタル(のフレーム)形状を持っている。

 ちなみに、今、販売されている各メーカ製のカーボンフレームのロード車は、どれも例外なくスローピングのフレーム形状となっているからだ。

 長く水平だったフレーム上のトップチューブ部(ダイヤモンドの前三角の頂部)をロード自転車としてはじめてシートチューブ(シート支柱)に向かって斜めに傾けたのがGIANT社であった。現在のロード自転車の主流となるスロープしたトップチューブはGIANT社の工夫したアルミロード車から始まったのだった。

 この自転車はGIANTを代表するカーボンロード車でありながら、まだ夜明け前の、伝来の由緒正しい輝かしい形状(なんといってもこの車体のフレーム形状はまさにダイヤモンドだから)を備えているのだった。


 そこで改めて友人Tの自転車に戻ってみると、車体(フレーム)の基本性能の良さもあるし、コンポの「R600シリーズ」も高い基本性能を持っている。現状のままではではどうにもならないが、これから行うメンテナンス次第ではそこで使われたパーツ(当時の高品位パーツ)も充分に利用が可能となるだろう、と思うのだった。

車体重量は20年前のものとは思えない軽量さ。

変速は前2段、後ろ8段の16速

タイヤサイズは700C 幅は19C。
変更後の車体の様子

 上に書いたようにGIANT社の工夫から始まったロード車の、今に流れるフレーム形状の来歴を思うと、すこし皮肉な話に思えてくる。友人Tの「CADEX」号は最先端の素材を利用した当時の先進モデルであるが、そのデザイン(大き目の後ろ三角などのジオメトリ全般)は旧来の習慣の上に成り立っている、と言えるからだ。

 それは、いまや望むべくも無い、水平に引き渡されたトップチューブを持った、貴重で華麗なカーボンフレーム車なのだった。


 余談だが、今となっては僅か15万円程度でカーボンフレームの完成車(メーカーによるアセンブル車)が購入できる、本当にありがたい時代になった。素材の供給も安定しているし、加工技術も成熟し、それを扱うメーカ側のフレーム開発力も習熟してきたためだろう。

 日本の繊維メーカから脱皮し、今では世界の素材メーカとなった「東レ」。そのカーボン素材が最新の航空機体などに利用される様になったのを見ても明らかだろうが、カーボンが持つ工業製品を形成する構成素材としての素性は、本当に素晴らしいものがある。
ページTopへ移動
 当時はまだ未知数が多い最先端の構造素材であったカーボンを利用してフレームを設えた自転車は、当然ながら非常に高価なものであった。グレードの高いパーツを使って組上げられた友人Tの自転車も、当時のクロモリフレーム車と比較すれば随分高額だったはずだ。

 彼が支払った金額は今のロード車と大きくは変わらない(同一グレード相当の車種)という。けれど、20数年前の物価水準を思えば、彼が購入に踏み切るには、それなりの覚悟というか、かなりの決心をしたはずだ。当時の感覚を思いやってみれば、今の私達が高嶺の花と仰ぐようなハイグレード(100万近いクラス)車を購入するのと同じような決断があったのだろうと思う。もちろん、私とすれば100万クラスの自転車を購入することなんてあり得ない事だし、それを購入する自分を想像するのも難しい。だから、その決断のほどを心底から思い浮かべることは、実は出来ないことなのだが・・・。

CADEXのチェーンステイ  さて、今回。



 私が取り組むのは、時代の過渡期に出現した、
 その往年の名車をなんとか復活しよう、というものだ。


 ようするにそれは、忘れ去られてしまう名車を深い眠りから目覚めさせて、
 もう一度、自転車を降りて久しい彼と共に  快い風の中に戻そうではないか、
 という内容なのだ。

<フレームの構成 について>

 さて、シートチューブからシートステーへの流れ(結合状態)を見ておこうか。

 それは一本の軸(シートステーの基部)がシートチューブから取り出され、それが途中(後輪タイヤに被る手前)であらためて2本に別れている形だ。丁度、アルファベット大文字の「Y」を逆さまにした形状で、当時の主流であった「A字」の形状を持ったものではない。

 その形状というものは、ピナレロが始めてレース市場で投入(もう前の事になるが、その投入年度が定かに記憶に無い)し、あっという間に流行した「カーボンバック」と同じ仕組み。少し前まで流行し、カーボンバックを奢ったアルミフレームの車体で使われたシートステーの形態と同じである。しかも、そのフレーム形状のあり方 ― それは従来とは違った新たな考え方だ。軽量化したうえで、充分に体重を支え、さらにそれを効率よく推進力に換えるという斬新な構造なのだから ― をかなり先取りしたものだった。

 だからなのか、車体全体の「在りよう」がなんとなく、美人画の中で和服を小粋に着こなした立ち姿を見るようで、じつに垢抜けている。上村松園が描いた「序の舞」の凛とした様子を観るような気分が味わえる。そこには、すっきりとした粋な雰囲気が溢れているようだ。

 自転車を後方から見た姿が美しいし、水平のトップチューブの前三角と相まって、その構成形状が今のものとは違っていてかえって斬新な印象を芽生えさせる。実に特徴的なもで、今となってはむしろ新鮮なのだ。

 そしてもうひとつ付け加えるとすれば、カーボン素材のチューブに関してだ。今のものと違って大分細身のものが使われている、という特徴を持っている。フレームを構成するトップチューブが絞り込まれている訳ではないし、ダウンチューブも太い物ではない。そうしたフレームが醸し出す様子が、この車種に精悍で粋な味を滲ませていてるのではなかろうか。
ページTopへ移動
<フレームへの手当て>

 しかし、残念なことにフレーム(ダウンチューブ上の1箇所)にはカーボンを保護するために施されたコーティングが剥離っしてしまった部分がある。

 友人Sによれば、そのフレームのコーティング再生(補修)を2液性の接着剤で賄えるのだ、という。

 彼の談によれば「接着剤を均一にフレームへ塗布すれば、その接着剤が乾燥によって硬化してそのあと透明になる」そうだ。だから「その手法は、カーボンチューブのトップコートに代用できる」と言うのだ。

 カーボン素材に対する技術革新は、デザイン的な成形や構造成型の革新によるところが大きいのだが、実はトップコートの技術進化の恩恵が大きなウエイトを占めている。この技術発展によって、従来の難点となっていた「劣化」が回避され、今ではその寿命を気にする必要がまったく無くなった。だから、表面のコーティングは実に大切な要素なのだ。

 彼の自転車、CADEX号はしかしながら、素材は先進的なものであってもそれを活かす技術が未成熟であった。そのため、いまや表面を覆っているコーティングが痛んでしまって、数箇所のチューブの一部では剥離を起こしている。このまま放置すれば、剥離面が大きく広がってしまい、チューブそのものに悪影響を与え始めるに違い無かろう。

 完全に再コーティングを行うすべがあればよいのだが、私が行っているような「素人メンテナンス」の技術レベルでは、まず無理であろう。せいぜい施すことが出来て、トップコート剤を塗装する、とか、先に紹介したように接着剤で賄う、といった程度のメンテナンスや修復が限界だ。

 だから、根本治療で完治を目指すのではなく、あくまでも応急手当や対処療法といった副次的な回避策をとるしか方法がなさそうだ。できれば何らかの方法でフレームを再生したい、と願うところだ。

 そしてこの自転車を快適に乗れる時間そのものを何とか先へ延ばしてやるのが、今回のミッションでの大きな課題と思っている。

ヘッドチューブ(アルミのラグで接合) ラグ組の様子

<パーツへの手当て>

 全体的な「手当て」として考えると、シフトワイヤー及びブレーキワイヤー、ブレーキパット、チェーンなどの消耗品は交換しなければならないだろうし、ハブやクランクのベアリングも相当疲労しているだろう。

 そうした経年劣化や損耗し耐用を超えたパーツの類は、すべて入れ替えが必要だろう。

 ビットーラ社のレースグレードで今で言えば同社の「オープンコルサ」と同等かと思われるタイヤは、外見上から判断してもすでに寿命に到達している。だから折角の高級品だが、勿論、即交換が必要だろう。さらにリムテープとチューブ、これも同時に換えてやる必要がある。


 そうした消耗品の類は別にして、それ以外のどのパーツを残し、どのパーツを交換するか、については充分に考えて整備を進めようと思っている。折角の素性のよさを壊すことなく、それを活かして全体バランスの良いものに仕上げていこう、と思うのだ。
ページTopへ移動
<ブレーキ周り>

 R600シリーズのブレーキ・キャリパーは当時からすでにダブルピポッド構造で、左右の傾き調整やリリースレバーなど、現行品(アルテグラや105シリーズ)と同様の構成を持っている。

 キャリパー本体は機構が現代的な事もあって、充分に利用ができてそうだ。シュー・パット及びケーシング(船)のみを交換すれば大丈夫、そのまま利用ができそうだ。しかし、ブレーキワイヤーは大分痛んでいる。このためケーブル交換(インナーとアウターの双方)が必要といえう。

 パーツクリーナーで丁寧に脱脂して、可動部分に新しいオイルを挿す。愛用している「フィニッシュライン」の粘度の高いレプリカントだが、一応、秋雨の時期なのでWETの方を着けておくことにする。その後、バネの部分はテフロン含有のグリスを塗って、表面を拭き取っておく。


<シフター>

 シフターは、ブレーキレバー一体型の「SHIMANO社製 STIレバー」だ。

 今では、安全性の観点や、変速操作の即時性によりすべてこのシステムになっているが、当時はまだダウンチューブ上に変速レバーがあって、それこそがシフター機構というレトロな構成が主流であった。そこでは、今となっては考えられないことだが、ハンドルについたレバーはブレーキのみを扱うというものにしか過ぎないのだった。

 やがて、ダウンチューブ上のレバーにも歯車に対するインデックスを賄うクリックが付いて、変速の操作を大分安定させた。だが、懐古趣味を追った製品以外にはそうしたフレーム上の「ダブルレバー」での変速の仕組みは、今ではすっかり淘汰されてしまっている。

 そうしたものと比較すると、ブレーキレバー内に内臓されたシフター構造は本当に秀逸な仕組みに違いない、とツクヅク思う。

 乗車姿勢を変えないで、つまり手及び上体がハンドル上の安定した位置のままで「変速操作」ができる、という当たり前が、少し前までは当たり前ではなかったのだ。

 両方の操作感を知らないとイメージしづらいかも知れないが、ブレーキレバーへの「変速機構の内臓」は実に画期的な構造であり、この状態の仕組みから今後の変化が起こることはもはや無いだろう。なぜなら、この仕組みであれば「ブレーキをかけながらシフトダウンする」などの緊急動作が無理なく行えるし、「カーブしながら安定した姿勢を維持して、よんどころなくその最中にシフトを換え無ければならない場合」などという、実に有難い操作性がそこにあるためだ。

 そうした利便性や安定性、言ってみればリスクを伴う状況での大きな安全性の獲得、という深い恩恵を味わってしまうと、最早、コントロール中のハンドル上から片手を外して変速する動作などには、戻れようはずが無いのは当然といえよう。

シフトレバーの様子(既存のドロップハンドルバー) シフトレバーの様子

ダウンチューブ上のシフト台座

<シフトの状態>

 さて、「R600」シリーズのブレーキレバーだ。

 このレバーは「STIシフター」であり、ブレーキ操作を担うほかに変速の機構を内臓している。

 しかし残念なことに、友人Tの「CADEX号」に付いている右レバーは変速機能がすっかりイカレてしまっている。ブレーキは右前や左前などといった選択をするが、右レバーでは後ろギヤでの変速を扱う。ところがこれがどれほど操作しても中間の3枚(8速中の内側)しか変速できない状態になっている。しかも、クリックして一旦はある位置にギヤがポジションしても、それがすぐに戻ってしまったり、クリックが滑って規定の位置についに固定できない、という状態が起こっているのだった。

 いわば、リアディレイラーが運転者の意図に関わらず、勝手に、常時、変速しようとしている、という状態なのだ。
ページTopへ移動
<シフトの調整>

 何故か、リアディレイラーはスプロケット(後ろのギヤ)の上で絶えずガチャガチャと動作している。だから意図した変速時だけでなく、変速後も一定のテンションをレバーに掛け続けなければ固定できない、といった状況なのだ。

 ケーブル長を調整して、一旦は何とか数枚分の変速が出来る状態にまでなったのだが、それでも走っているとリアギヤがシフト操作していないのにいつの間にか操作前の状態へ戻ってしまう。要するに「意図に関わらず勝手に変速してしまう」という状況はついに調整できず、その症状は改善できないままなのだ。

 「いったい、どうなっているのか?」と最初は不審に思ったが、どうもシフター内のラッチ(クラッチ機構?)が完全に磨耗している様なのだ。リア・ディレイラー自体は動作するのでパーツとしてなんとか利用できそうだが、これではレバーをそっくり交換する以外に改善(調整)が出来そうに無い。

 SHIMANOの「STIレバー」は高価な構成パーツである。たとえばアルテグラのSTIレバーは定価が32000円。その部品だけで、通学用の実用的な自転車一台が買えてしまう、といった代物だ。

 「STIレバー」は、ブレーキを操作するための制動部品と共にディレイラーに対する変速制御を賄う。つまり、それを操作する運転者とそれに反応して動作する車体とのインターフェイスを担う重要なパーツである。言ってみれば運転時の操作上の心臓部といえよう。精密に調整された範囲でミリ単位の緻密さでディレイラーの移動量を制御するものだし、同時にブレーキ動作も扱うものなのだから、それが持っている内部の構造は非常に複雑なものだ。

 気持ちよくシフトチェンジの操作を扱えるフィーリングという難しい性能、機械制御の上に立った、そうした「操作の快適性」をも兼ね備えなければいけない性質のものだから、製品価格が高額であるのは当然といえよう。とは言うものの、シフトレバーは交換パーツの購入に踏み切るには躊躇してしまう部品の最右翼だろう。

 本来は高性能なパーツが付いているのだから、このR600シリーズのものがそのまま(あるいは調整程度で)利用できれば一番喜ばしい状況なのだが、前述のとおり「ラッキー!」とはいえない状況なので、部品の再利用は完全に無理といえる状態だ。

ドロップバー上のブレーキ(STI)レバー フラットバーのブレーキレバー

 さて、8速のディレイラーに対する現行の対応品はSHIMANOの製品ラインで言うと旧モデルの「ソラ」や「R550」のシリーズとなる。ソラはその下位に2200シリーズというパーツを持っているが、個別のグレード名称を持ったSHIMANOのパーツの下位にある入門グレードの製品シリーズに過ぎない。部材の品質や操作のフィーリングは600シリーズとは比較にならない程で、敢えてこのグレードのパーツを選択するのはちょっと躊躇してしまう。

 しかし、シフターを一体型レバーの状態で交換しようとすれば8速の対応品はそれくらいしかないのが現状だ。あるいは程度の良い<中古パーツ>を探すなどだろうか・・・。

 考えてみれば、先祖がえりという手段も考えられる。あらためてダウンチューブにダブルレバーの変速機を付け、ハンドル上のレバーではブレーキ操作のみを扱うという手法もあるだろう。

 そうすれば、既存のレバー(ハンドル上のSTIレバー)はそのままで済む。しかもこのフレームのダウンチューブ上には変速レバー用の台座があるので、出費はダブルレバーの購入代金の4000円程で済んでしまう計算となる。だが、それでは折角獲得していた安全性や快適性という視点から大きく外れてしまう事になる。

 そうする事での必要経費(メンテナンス費用)は充分に魅力あるものなのだが、あまり現実的な選択とは言えないだろう。
ページTopへ移動
<変速機構の判断>

 変速に関してだが、敢えて新品の「ソラ」や「R500」の一体型シフトレバーを買うのではなく、いっそ変速のシステムを変えてしまおうではないか、と思いついた。

 それはドロップ・バーではなく「フラット・バー」へハンドル機構を変更する、という手法だ。

 フラット・バーであれば高価なSTIレバーは不要であって、コンビネーション(ブレーキとシフター)の一体型レバーや、ブレーキレバーと変速レバーの組み合わせなど、選択の範囲を広げる事ができるからだ。

 しかも製品として「8速対応のレバー」は数社から発売されているし、しかもそれが数グレード用意されていて選択の余地が多くあるという状況だ。

 「フラット・バー・ロード」という車体分類がある。ロード車の構成でハンドルのみが従来のドロップ形状のものではなく、クロスバイクのようなフラットなハンドル・バーを用いる、という内容のものだ。この仕様であれば、フラットロード用の8速パーツやMTB用のレバー、クロスバイク用のレバーなど、数ある製品の中から気に入るものを見つければよい。

ブレーキとシフター フラット・バーロード用のブレーキ一体型シフター
ページTopへ移動
<変速機構の選択>

 そうして選んだのが、SHIMANOの8速用の一体型レバーだ。

 ブレーキレバーの部分と変速レバーの部分が一体化されたモデルだ。このレバーはMTB用の製品ではない。MTB用よりもレバー長(マウンテンは通常2本指)が長く4本指で操作が出来る製品で、ラインナップとしてはフラットハンドルバー・ロードコンポーネントのラインナップとなるものだ。

 型番は「ST−R221」というもので、その価格がなんとも魅力的な製品。R・Lのペアがセットになっていて前2速・後ろ8速に対応し、定価で4500円ほどのものなのだ。しかもそれぞれのフロントとリアのブレーキケーブルとギヤケーブル、そしてアウターケーブルが付属する。このため、インナーやアウターのケーブル類をレバーの他に購入する必要が無いという信じられない代物だ。

 ちなみに、セコイ話で恐縮だが、この製品の価格についての所感に触れておこう。

 たとえば、SHIMANOのロード用のギヤケーブルセット(インナーとアウターのR/Lセット)は定価1500円であり、ブレーキケーブルセットは同じく1600円程だったと思う。とすると、今回のレバーセットの価格設定と比べて考えてみて、この製品の設定価格というものは一体どういう状況なのだろうか。

シフターとグリップ 変速機構

 レバーの本体機構は、ワイヤー(ケーブル)の個別パーツの総価格を考えれば、いわばオマケということになってしまう。だから最早言うまでも無くお判りのことだろうが、この「ST−R221」は随分と思い切った戦略的な価格の、実にお勧めの製品といえよう。

 さて、「ST−R221」にはシルバーとブラックの2モデルの展開がある。さらに3X8対応品(前が2速ではなく3速のギヤに対応)はST−R225の型番で、同価格となっている。これらのレバーはいずれもロードバイクで利用されるキャリパー・ブレーキに対応するので、設置に当たっては、なんらの工夫も余分な手当ても必要ない。

 だからこのパーツ、彼の自転車の2X8のディレイラーやキャリパーブレーキと組み合わせて、安心して利用することが出来る。

 ちなみにMTBやクロスバイクのブレーキは多くはVブレーキでありキャリパーブレーキでは無い。設置対象がVブレーキの車体であった場合、使えなくは無いだろうが、あえて不適合となるこの製品を利用するのは好ましくないだろう。
ページTopへ移動
<ヘッドの構造を思考する>

 先に書いたようにハンドルバーをフラットバーへ、シフターやブレーキもフラット・ロード用の製品へ変更する事を決めた。

 だから、ヘッドに着くハンドル及びステムに関しても、今の状態のスレッド・ステム(コラム一体型のL字ステム)のままではいかにも具合が悪い。ただし、それは操作性に関しての部分ではなく、あくまでも見た目の問題・・・。

 自転車の愉しみに占める「外観」というものは大きな要素だと思うが、どうだろうか。

 湧き上がるイメージや構成から来るインパクトは馬鹿に出来ない大きなものだろう。そうした訳で、どうしてもそのままの(従来のスレッド)ステムでフラット・バーのハンドルを付けると収まりが実に悪い。早い話、垢抜けず、自転車の印象が実にひどいものになってしまう。

 その外観といったら、「ありえないだろう、これは・・」 と、誰もが絶句するに違いない状態なのだ。そこには、ロード車が持つあの独特の<精悍さ>が一片の欠片も無い、といった内容なのだ。しかも田舎臭いし、バランスも悪い。


 要するにその自転車が持っている美しいホリゾンタル・フレームに、まるでしっくりこないのだ。つまり、その物件からは一流のロード車が備えているクールさが湧き出していないのだ。

 これは頂けない・・・。

 実に「いけてない」状況だ。密かに大切にしている、私の美的な<センス>そのものを疑われてしまう強い恐れがある。
ページTopへ移動
<コラムとステムへの工夫>

 フラット・バー化は実に良いアイデアなのだが、いまのステムにそのままハンドルを付けるには先に書いたようにちょっと難がある。だから、ステムを変えてあげればよいのだが、既存のヘッド構造までを変えることは出来ない。なぜなら、そこまでするにはそもそも今のフォーク部分(コラムシャフト)自体を交換しなければならないからだ。

 そこで、ヘッド部分の構造はそのままで、アヘッド・システムの良さを取り入れるアダプターを偉大な先人は考えた。まったく、どの趣味世界でも「先達」の存在というものは本当に有難いことである。

 「なんちゃってアヘッド」などと異名をとっているように、そのための専用パーツ(コンバータ−)が存在するのだった。

既存のスレッドステム ヘッドパーツ
ページTopへ移動
ヘッドを変換するためのパーツ;ステム・コンバーター 変換後のステムとヘッド部分

 その仕組みは本当に「良いとこどり」のもので、便利この上なく出来ている。正式な名称は「ステム・コンバータ」と言うものだ。この変換用の秀逸なパーツは各社から販売されていて、そのコラム部品を利用すれば、簡単に現状の多くのロード車で利用されているステムを装着できるようになるのだ。

 そうすれば、ハンドル位置の上下だけでなく、一般のロード車同様にハンドルまでの距離も細かく調整が出来るようになる。もっとも、距離の調整に関しては、サドル側についてはポストへの留め位置の移動でよいが、ステムではそうしたアジャストが出来ない。

 もっとも、ハンドルまでの距離だけでなく、クランク軸との座面位置のオフセットまでも考慮に入れて乗車ポジションの調整を考えると、サドル移動に関してはシートポストの変更が必要となる場合がある。オフセットは20mmや25mmなどが主流だが、ポストとシートクランプのオフセット量を変えて、正統な座面位置を手当てするためだ。

 ところで、ステムというパーツは固定部品である。それ自体を付け替えることで調整する仕組みのものなのだ。だから、最終的には、5mm単位に長さの刻みが細かく設定されたそれぞれのステムから、最適な長さのものに付け替える必要がある。

フラットバー・ハンドル 交換したハンドルの様子

軽量ステムが凛々しい
ページTopへ移動
<タイヤの交換>

 イタリアのビットーラ社のレース用高級タイヤが付いていて、これが700−19Cというサイズ。実に細身でかっこいい。

 しかし、折角だが、サイドウォールのゴムが最早寿命にある、と言えよう。加水分解しているというか、表面のゴム面が乾燥してボロボロの状態なのだ。そこからは、ゴムの内部にある構造繊維で辛うじて形状を保っている、という状態が見て取れる。

 だから、タイヤをリムから取り外して、交換を行う。

 タイヤやチューブを外して新しいものに交換したのだが、その際にうまくタイヤがリムに嵌らなかった。考えられないほど、キツクてクリンチャータイヤが入れられないのだ。最後の一押しでプラスチック製のタイヤレバーが折れてしまった。レバーはABS樹脂などの強い素材のものだと思うが、ポキッといってしまったのだ。

 改めてリムを確認したら、なぜか内部のリム・テープが2重に巻かれていた。「リム打ち」によるパンクを防ぐための対応かも知れないが、2重にしていた意味が判らない。

 このため2重に巻かれたリムテープを外して、新しいテープに交換する。勿論、通常通りに一枚だけで仕上げ、再度、チューブとタイヤをリムへ入れていく。

 新しく付けたミシュラン社のタイヤ。この「PRO3 RACE」は同社を代表するレースにも使えるクリンチャータイヤだが、パフォーマンスが高くて耐久性も優れているので人気が高いものだ。

 「耐久性」と書いた内容だが、磨耗や劣化に対する対応力に優れていて、しかも柔らかく路面に吸い付く上にロングライフであるという特性を持っている。さらに、高い耐パンク性能も合わせ持っているという、実に優秀な製品だ。

既存のタイヤ 新しいタイヤ
ページTopへ移動
既存のシート、ポスト

既存のシートとポスト
新しいポストとシート

<最終の仕上げ ;シート>

 ハンドルの両端がグリップの持つ白でアクセントされたので、それにあわせてシートも取り替える事にする。このシート、PROLOGO(プロロゴ)というメーカのもの。ツールドフランスの出場自転車でも採用されている新進のメーカだ。

 シートと言えば、セラ・イタリアやサンマルコ、フィジークといったところが一般的だ。上位モデルに関しては、素材は変えるが形状は変化させないなど、慣れ親しんだアスリートの要求を満足させる姿勢をいずれのメーカも持っている。そうした中で新たにサプライヤーに食い込むのは大変な企業努力だと思うが、そのメーカがスポーツ用に提供しているモデルだ。

PROLOGOのシート 私もGIANT のエスケープで利用しているが、長距離はともかく、50kmに満たない距離を走るような場合には実に具合のいいシートだ。


ハンドルグリップにあわせて、色は白としてデザイン的な繋がりを保とうと思う。
ページTopへ移動
>リアディレイラーとアウターケーブル アウターケーブルを交換する

<最終の仕上げ ;ハンドルグリップ、アウターケーブル>

 ケーブルをすべて交換し、ハンドルや変速機構も一変し、タイヤも新しい状態になった。これで、修復作業は一応完了という事になる。後は、細かい部分を押さえていこうと思う。

 ハンドルがフラットバーとなったので、今度は今までになかったハンドルグリップが必要となる。これは、いっそ、手置きの良いエルゴグリップを入れておこう。掌を置いて乗車姿勢が保てるような形状を持っている。グリップの色は白色としてアクセントにしよう。

シフトとブレーキとハンドルグリップ
ページTopへ移動
<ペダル>

 レーシングクリップとベルトが付いた三ヶ島のペダルであったが、パフォーマンスを考えて、これを外してクリップのものに変える事にする。

 形式としてはSHIMANOの「SPD-SL」の形状を持っているもの。これは、友人Sからの提供品。ちょっと現行のSPD-SLのクリートとは微妙に受けの形状が違うようだが、そのまま今のクリートでアタッチできる。乗車してみるとシューズの取り外しが、現行品よりも軽く出来る。

 クリートペダルを使わなくても良いのだが、山坂の多い彼の住環境を考えると、この方が俄然楽だと考えたためだ。

後ろダイヤモンド
ページTopへ移動
<GIANT社の「CADEX」 について>

 先ほども書いたようにその自転車で選択されたフレームの素材はカーボンだ。

 作ったのは台湾の雄、いや今ではその名の通り世界一位の巨大メーカーへ成長したGIANT社だ。

 今でも斬新なモデルを衰えずに開発しているし、その流通量は目を見張るものがあるが、当時のロード車の市場ではイタリアやフランスの老舗メーカの手によるフレームや完成車が主流であり、「ジャイアント」はまだ認知度の低い、低価格・高品質で勝負を挑む新進気鋭のメーカだったはずだ。しかし、盲目的なブランド信仰からの購入判断ではなく、フレームが持つその高いポテンシャルや、秀逸なその設計思想に惚れて、友人はこのフレームを選択したに違いない。

 当時はカーボン素材自体の評価が固定する前の、いわば素材としてはまったくの黎明期にあった。言ってみれば当時の「CADEX」号は、そうした中でのきわめて斬新な開発モデルである。私の知る限り、当時の民生用の工業製品での素材用途としては釣竿やゴルフクラブのシャフトなどに使われ始めたばかり、カーボンの使い道はまだその程度の時期なのだから。

 「黎明期」のフレームと書いたのは、まだ素材の加工技術や成形技術、さらに言えばトップコート(表面コーティング)の技術など、すべてが未熟であったし、素材として利用する、その用途さえもまだまだ手探りの状況だったと思われるからだ。

 それが証拠に、そのモデルのフレームは単なるカーボン製のパイプを合金製のジョイント部材によって、造形の各部を結合して構成されている。だからそのフレームは、一見して明確なように現在のように複雑な成形を持ったモノコック構造ではないのだった。

 それは口径の異なるカーボン製のチューブ(台所で使うラップの芯のような円筒)、要するにただの管(パイプ)をアルミダイキャストの鋳造接合部材でつないでダイアモンドの各部(フレーム)を構成した、という状態なのだ。

 ヘッドチューブの部分で言えばトップチューブとダウンチューブの各チューブへの結合部、そしてそれらとシートチューブの結合やBB(クランク基部)部分、それらの結合部品がチューブと同じカーボン素材によるのではなく、勿論一体成形でもなく、加工の容易なアルミ素材(鋳造部材)でもって構造化されているのだった。

CADEX
ページTopへ移動
<SHIMANO 「R600」シリーズ について>

 さて、改めてパーツの状態を調べてみよう。

 コンポーネントはSHIMANO社製の「R600シリーズ」を使っている。これは充分な性能を持ったレースグレードの上級品だ。現行の「ULTEGRA(アルテグラ)」の前身となるパーツラインである。勿論、何世代もの時代を経ているので、その間の技術革新を反映した現行品の製品レベル(今のアルテグラの水準)と比べることはナンセンスに過ぎる。

 今のブランドラインでも「アルテグラ」はSHIMANOを代表するもので、自転車のコンポーネントのシリーズだけでなく釣具のリールなどにも同じグレード名が使われている。アルテグラは私達が利用する最高グレードのシリーズなのだが、当時としても「R600」というシリーズはレース用の高級パーツだ。

 しかし現在のアルテグラと同様に、当時の「R600」シリーズにも、ご存知の通り、さらに上位のモデルシリーズが存在していた。

 別格のシリーズとしてカンパニョーロの高グレード製品に対抗して、最高峰のレース用品として開発された「デュラ・エース」のラインが最高級コンポーネントとして位置していた事情は、今と変わらない。

 高グレードと書いたが、しかし、我らが「デュラ・エース」には、カンパニョーロの「スーパー・レコード」や「レコード」のように工芸品としての趣味性はない。それはあくまでも生一本に質実剛健を求めていったものだし、しかも、それを体現した製品だからだ。

 「デュラエース」は生真面目に性能のみを追求して揃えられたグレードのコンポであり、それはSHIMANOが世界に誇る品質と技術の結晶だという事に、だれも異論はあるまい。

フロントディレイラー リアディレイラー

 今ではすっかり衰退してしまったのが、その昔、戦後間もない古い時代においては日本の主要なドル箱、輸出の雄であったカメラ業界。すっかり影を潜めてしまったそれに変わって、デュラエースのようなパーツ製品は、日本の機械加工の高い工業水準を世界レベルで示しているように思えるのだ。たとえばデュラエースのブレーキキャリパーなどは、戦後の日本が得意分野としていた精密機械の技術の表出といっても良いのではなかろうか。

 もっともカメラ業界と違って、国内の自転車主要部品の供給先メーカーとしてもっぱら寡占状態の単一企業となってしまっているで、国内での競争原理は無いに等しい。しかも国内の自転車流通量から考えるとスポーツ自転車が占める量などはまだ僅かな範囲だろうし、そう考えると市場的にはぐっと狭いものであろう。だけれど、ヨーロッパで自転車が占める文化的な位置から考えれば、自転車の市場は馬鹿には出来ないものとも思える。カンパニョーロを凌駕し、SRAMの追い上げをかわし続けている健闘振りを考えれば、SHIMANOパーツ製品への世界的な評価や期待は、それほど低いものではないかも知れない。

 さて、デュラ・エースといえば私なども「いつかは・・・」と憧れるパーツだが、それはプロの過酷な利用を想定したグレードのものであり(だから当然高額であって)、残念ながら我が身にとっては過分にすぎる。

 となると、実質的に最高の品質やフィーリングを求めようとする場合、いきおいプロレース(3大ツーリングなどの世界最高峰の過酷なレース)での利用を想定したものを選ぶのではなく、その下位グレードの優秀な製品を求める事になるのではなかろうか。

 前置きが長くてもうすでにお気付きだと思うのだが、結論を書いてしまえば、レースで培ったデュラ・エースの技術をフィードバックして手の届く価格で広い供給というものを実現したのが現在も変わらぬ人気を誇る「アルテグラ」のシリーズなのだ。

 しかし、現在のデュラエース主体の開発と従前の製品開発の姿勢は異なっていたものと思う。最上位の製品としての研究開発の結果を下位モデルへ順次波及させて行くという方向の開発形態ではなく、80年代であればアルテの前身となる「R600シリーズ」がまずあって、それをベースにして、さらに別格品として高い性能や耐久性を追求していったのだろうと思うのだ。

 コストを軽くして下流へ向かうという上からの<波及の状態>ではなく、いったん惜しみなくすべて(素材、加工、技術)を注ぎ込んだ上でそのあと無駄を削いでいって信頼性と耐久性を創造する上方向への流れ、いってみれば<昇華の状態>が製品開発の姿勢としてあったのではないだろうか。そしてそうしたあくなき性能の探求結果として、その研鑽が「デュラ・エース」というラインとして実ったという事ではなかったか、と考えているのだが、どうだろうか。
ページTopへ移動