故郷「前橋」の北方、ここから県北の山岳地帯がそろそろ始まるという渋川市には、古くからの街道が通っている。
前橋は赤城の麓の街なのだが、渋川は榛名の麓の街であるといえよう。
しかし、渋川は赤城の裾野と接してもいる。関東平野は市の入口で終わり、市域の大部分は山々へと続く傾斜地となっているという土地柄で、東方に赤城(あかぎ)山、西方に榛名(はるな)山を控え、市域はまるで扇状地のように広がっている。
だから、関東へ向かって他国から入るための入り口になっている。信州から続く吾妻街道、越後へ抜ける三国街道、日光や会津方面へ抜けるための福島街道。それらが、この地に集まって来て関東から遠方へと通り抜けていくのだった。交通路の要衝といえよう。
それらの交通路を<観光>という視点で表現したほうがより判り易いかもしれない。
例えばその繋がりを温泉で表現すれば、次のようになる。
草津温泉へ抜ける吾妻(あがつま)街道への入口でもあり、奥利根の水上(みなかみ)温泉や三国(みくに)山脈手前の猿ヶ京(さるがきょう)温泉への出発点となる場所、さらに沼田を抜けて日光を経由し、鬼怒川や塩原温泉、その先の福島会津地方へと向かう道でもあった。
今度は山並みの連なりでそれを言い換えてみようか。
渋川の市街から北部へ展開する山並みを見渡すと、眼前左手に榛名山が立ちはだかって、その後ろに子持(こもち)山や小野子(おのこ)山が真近に続き、その左奥に残雪を残した谷川岳や奥利根、さらに三国山脈へと山並みが重なる。眼を右手に移せば、赤城山が迫ってきて、小野子山の右奥には武尊(ほたか)山や日光白根山が連なる。
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