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カメラ : 35mm 一眼レフ
ST-135 Supper Takumar135mmF2.5のカビを落とす  (2008.08.16)

レンズ;
  ST(Supper Takumar) 135mmF2.5


 Supper Takumar は国民機でベストセラー・モデルの Asahi Pentax SP用に開発されたレンズ群。

 普通、カメラのレンズは様々な収差を補正するために複数のレンズで一本の焦点距離を構成する。後に同じレンズ構成で、すべての使用レンズの両面に7層のマルチ・コーティングを施した「SMC−Takumarレンズ」に変更されるが、単層コートの「スーパー・タクマー」の素直な発色も、未だに衰えぬ根強い人気がある。

 レンズ自体は細身の金属鏡筒をもっていて、その筒面には美しいローレットが刻まれている。マウントはユニバーサル・マウントのM42なので、ボディは国産だけでなく世界中の各社のものが利用できる。

 「スーパー・タクマー」レンズは、単層のコーティングだ。そして「開放測光」に対応していない初期の構造を持ったレンズ。<Pentax SP−F>などの開放測光機でも一応は利用が出来るが、「絞込み測光」の機構のみに対応しているので、ボディが持っている機能をフルに活用する事は出来ない。

 「開放測光」とは、測光時は絞り羽根を開放状態としてピント調整が楽になる明るい画面を提供し、シャッターが切れる瞬間に同調して絞り羽根が絞込まれる仕組みが基本となっている。技術の芯は、実際の絞り込んだ状態ではなく設定した値まで絞るとどうなるかを『推定』して適正露出を演算し判定する、という部分だ。ちなみに、今の私達が利用している銀塩やデジタルの一眼レフ・カメラではすべてこの機構を利用している。
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<Super Takumar;スーパー・タクマー レンズの仕組みの基礎講座>

 スーパー・タクマー・レンズのボディ<Pentax SP>はTTL露出計を搭載した画期的な機械だ。
 
 「TTL」とはスルー・ザ・レンズであり、「レンズを通過した実際の光」の状況を測定するものだ。M42マウントでは付け替える交換レンズは世界各国で生産されたものであり、状況の異なる様々なレンズだが、そういした固体差が吸収される。着けたレンズそのものが測光機能の一部を担う仕組みなのだ。この仕組みは、後に「ダイレクト測光」などに発展するが、今に続く一眼レフでの露出の特色だ。

 その昔、私が小学生の低学年の頃は、露出計はカメラにまだ内臓されていなくて、独立した一つの機械であった。被写体の前に持っていって、その反射光を捕らえて計測して、そこで得たシャッタースピードと絞り値をカメラで設定していた。一番明るい部分に合わせるか暗い部分に合わせるか、または白く飛ばす部分や黒く潰す部分はどうするか、といった画作りを考えて被写体の部分別の反射率を測って、そのデータから人間が考えて平均値や最適値を決めていた。この最後の考える部分がノウハウやテクニックといったカメラマンの手腕なのだ。実際の反射光を測っているので露出値は正確には違いないが、撮影準備として行われるその儀式はすこぶる煩わしいものであった。
 初期のカメラを手にしたマニアは、すでにこうした反射露出計を持っていたので、PENTAXではSPと同じ仕組み・外観のボディで、露出計を内臓していない機種まで用意していた。今のカメラからは想像も出来なくて、「内臓」ではない「外付け」の露出計って何ですか、というところになるのだが・・・。今も販売されているのかどうかわからないが、たとえばPENTAXではスポット・メータ、後にデジタル・スポット・メータというかなり高価な製品があって、今内臓されている露出区分のスポット測光が出来る専用の拳銃のような形をした機械があった。だからSPの時代では、「内臓露出計」は付加価値の高い装置であった。

 スポットメータは、反射光をきわめて狭い範囲を遠隔から計測する。先の露出計では被写体の直ぐ近くにもって行かないと部分的な計測が出来ないので、計測者が移動する必要があるし、例えば人物の顔を測る際は頬に付ける様にして測る必要があった。
 そうした撮影者にもモデルにも煩わしかった部分がテレビに向けるリモコンのように手元で済んでしまう機械なのだ。

 さて、スーパー・タクマー用のボディ<PENTAX SP>では、ピントを確認した後にボディに用意された絞込みレバーを操作する必要がある。レバー操作によって連動したレンズ側のピンが押されて、レンズの絞り羽根が瞬時に絞り込まれ、そのて露出を計測する。そしてシャッターを切リ終わると、操作した絞込みレバーはシャッターに連動して元に戻って開放され、次の動作タイミングに備える。このように、SPでは実際に絞ったときの明るさを判定する仕組みであった。SPなどの露出動作は、このため「絞込み測光」という名前がついていた。

 この一連の手動の操作が、「開放測光」機では自動で判定されて解決されるのだ。絞り開放の値と設定した絞り値がボディ側で判断できる仕組みになっているので、開放状態の明るさに対しての「絞り込んだ状態での明るさ」を、実際に絞る事無くリレーを重ねた演算回路で算出する。  シャッター・スピードと絞り値の選択で決定した状態の「露出の適性」を想定上で判定するのだ。SPの測光のように実際の状態を測光する事に関しては適切な位置への露出計の組み込みと意識的な操作で解決するのだが、そうではなく、「絞ったらどうか」という状態を想定して判定するところが、この「開放測光」という仕組みのすごいところだ。

 SMC−Takumarレンズのマウント基部には、カメラボディとは独立して、絞りバネの制御を行うための機構がある。M42マウントの相手ボディがPENTAX製とは限らず、絞込み制御の連動機構を持たない場合もあるからだ。

ST−135mmF2.5

<Super Takumar;スーパー・タクマー レンズの仕組み>

 開放での 『絞り位置を伝達するための連携タブ』 と、選択した 『絞込み位置を伝達する絞り値連携バー』 がボディへと情報を伝える仕組みになっている。しかも、歯車の回転具合だとか羽根の位置などといった機械的な状態変化によってそれが行われる。露出計の適正を表現している指針は、電気抵抗の値で上下するが、伝わった機械の位置状態の値がボリュームのような連続する抵抗によって電気的な数値に置き換えられるのだ。

 さらに、マウント基部には上記の仕組みの他にSuper−TakumarやSMC−Takumarに用意されている 『絞り動作用の制御ピン』 が出ている。銀色に光このピンが押されると、レンズ内部の絞り羽根が絞られる仕組みになっている。


 個別のレンズか持っている開放F値がいくつになるかと、今その開放状態からどれだけ絞っているかの情報伝達は、今ではレンズとボディの間の電気信号がそれを担っているが、この伝達手段が、当時は目が眩みそうな「完全な機械仕掛けによる機構」によって成されていたのであった。

 時計やカメラのような精密な機械制御の仕組みは今ではもう作れないのだろうが、老練な技術者であれば、相手が電気回路ではなく羽根やバネや歯車などの機械なので、初期の精度を出すようにメンテナンスすることが出来る。そのため、こうしたフル・メカニカル・カメラはオーバー・ホールによって新たな命を与えられ、マシンとしての寿命を取り戻すことが出来るのだ。
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ST−135mmF2.5  1/20 f2.5 ST−135mmF2.5  1/350 f2.5

 SMC−Takumarの一世代前となる「スーパー・タクマー・レンズ」は、実に古いレンズだ。発売は今から大分遡った、1960年代初頭の製品だ。

 実は SMC−Takumarの望遠レンズは各種の焦点距離を持っている。そして、どの望遠レンズも現役だが、それぞれに味があってどれもが好きなものだ。

 たまにはデジタルの<Ist−D>へ「マウント・アダプター」を使って接合する事もあるが、そもそもはフィルム・カメラの<SP−F>用に揃えたもの。105mm、120mm、135mm、150mmの4本のSMC−Takumarレンズだ。135mmはF3.5、150mmはF4だが、あとはF2.8の明るいレンズであり、フィルター径はどれも49mm。

 この小ぶりでスリムなレンズが、PENTAX最初のデジタル・カメラの<Ist−D>の小型ボディに大変しっくり来る。


 さて、今回の望遠レンズは135mmなので、すでに持っているSMC−Takumarのレンズと同じ焦点距離だ。違いは開放F値で、今回買ったレンズではF2.5。という事はレンズ径が違うだけではなく、枚数や群の構成が違うということだ。この開放F値は、今では無い明るいもので、当時としては非常に優秀な高級レンズであったのだと思う。

 私はPENTAXのレンズ・マニアなので、実はK2用のバヨネット・マウントのKマウント・レンズで同じスペックのものを持っている。SMC−PENTAX 135mmF2.5は素晴らしい発色のレンズなのだが、今回のTakumarレンズはそのレンズの設計コンセプトの<原点>だろう。

 SMC−Takumar 135mmF3.5レンズの細身(49mm径)とは違って、こちらは58mm径の太い鏡筒で、だいぶ大型の重量級レンズだ。大きさはオートフォーカス用のFA135mmと同じくらいだろうか。
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ST−135mmF2.5 ST−135mmF2.5

さすがに古いレンズなので、ネジなどには錆が浮いている。

 お盆休みは、生憎と仕事であった。

 そんな15日の夕方、新宿のいつもお世話になっている「カメラのキタムラ」へ寄ってみた。この店では、つい先日、中古のFA50mmのF1.7と、その後、ほぼ新品状態のフォクトレンダーのパンケーキタイプULTRON 40mm F2を買ったばかりだ。だから、今回は何を買うという目的はまったく無く、いつものパトロールであった。

 ところが、ふと、目を留めてしまったのだ。ショーケースの中に、「小カビあり」の注意書きが付いた「Super Takumar 135mm F2.5」の値札を。

 両キャップ(フロントは金属性のオリジナル)、純正品の金属フード付きであり、鏡筒には傷が無い。ショーケースから出してもらって確認すると、レンズ自体にも焼け(退色)や腐食(バルサムの劣化)がなく、実に綺麗な状態だ。さて、カビはどこにあるのだろうか・・・。
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カビの状況(銀色のピンの横) カビの状況

 結像に影響する後玉、しかも最終レンズの内側に「小カビ」と表現されたそのカビはあった。

 前玉は光を集めるだけなので、実際には気にする必要は無い。「前玉キズ」などは中古品では致命傷でひどく値段が下がるが、実は中古で売られるレベルの前玉の瑕はそういう訳でフードを装着すればまったく問題が無くなってしまう。だからこうして値段が下げられているのは、コレクターとしては無意味だろうが実利を考えればお買い得の物件だ。でも、絞り羽根より後ろの「後玉」は問題が多い。今では当たり前の「非球面」による収差補正の技術が無い時代なので、二枚のレンズを張り合わせて様々な収差を調整したものが多い。合わせ面の接着(バルサム)が腐食していたり、カビが浸透していたりする場合があるのだ。そんな状態では、もうどうにもならない。素人は勿論、プロによってもクリーニングや修正はまず出来ないのだ。もしそうした物件を購入してしまったら、ソフトフォーカス用として割り切って使うしかない。

 さて、今回の「小カビ」の除去作戦だ。

 私は、カビを落とす特効薬を持っている。この液体は「イソ・プロピル・アルコール」で、すでに3本のレンズのカビを除去し、復活させているのだ。

 SMC−Takumarの105mm F2.8望遠、SMC−Pentax Mの135mm F3.5望遠、SMC−Pentax Mの50mm F1.7標準だ。でも、SMC−Takumarの100mm F4マクロは、レンズ表面から侵食し根付いたカビであった。このため、このレンズはカビの完全な除去は出来なかった。だから、今回も落とせるかどうかは判らない。

 でも、確認した程度のかびの量であれば、落とせなくても撮影にはまったく問題は無いかもしれない。レンズ中心に向かって走っていたり、レンズ面全体に広がっている訳ではなく、周辺の一部にひっそりとある状態だからだ。

 まあ、土曜・日曜日は休めそうなので、夏休みの工作のつもりで買って見る事にした。
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レンズの押さえリング レンズ面のカビの様子

 まず、最終レンズを押さえている、留めリングを外す。「かに目レンチ」という専用の工具がある。カニの目の部分を想像して欲しい。ボディから飛び出た二本の目の部分がドライバーの歯となっている。歯先は、デバイダーのようなピン状だったり、マイナスドライバー状であったりする。その「カニ目」でリングネジにある二本の切り込みを回すのだ。

 実は、私がいつもレンズの分解に使っているのは、紹介した「かに目レンチ」では無くキッチンバサミだ。握り部分の底に平らなドライバー状の張り出しがある。もともとハサミなので中留めから任意に広げて幅を調整できる。それでうまく使うと「かに目」と同様の働きが出来るのだ。

 レンズ面にキズをつけないように注意して、リングネジをゆっくり回す。固着している場合があって、一遍に力を入れると、山(切り欠き)をナメてしまう場合があるのだ。変な話だか、外す側とは逆側となるが、リングを押し付けるように均等に圧を加えるのがコツだ。

 「後玉」の場合は、こうして順番に見えてくるリングネジを外していくと、一枚ずつだがレンズが順次外せる。構成によっては群として一つの筒に入ったのユニットになっている場合もある。そうしたユニットの場合にはそれが一度にすべて外れる。その上で、各レンズを外して行く。

 ちなみに、「前玉」の場合には、レンズ前面にある名板を外すことからはじめる。これには切り欠きなどは無いので、また別の道具が必要だ。台所用品としては密閉してしまったビンのふたを開けるためのものが流用できる。シリコン製のシートで代用ができるが、名板をまわす際にレンズ表面まで強く擦ってしまう場合があり、この作業も注意が必要だ。そうして名板が外れると、カニ目用の切り欠きを持つリングが現れる。こちらも焦点距離によって仕組みの傾向があり、後玉同様にユニットとなっているものもある。
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レンズを取り外す カビの除去後のレンズ

 リングを外して、レンズを取り出した。

 確認すると、内側に写真のようにカビが着いていた。さらに良く観察すると、その反対側にも細かなカビがいくつも着いていた。

 成長過程であったものが止まったような状態だ。

 これは多分、急激な温度変化による「結露」が原因だろう。夏場のエアコンがガンガン効いた状態から屋外に持ち出す場合や、その逆の冬の暖房室内へ持ち込む場合、レンズ内部に露が着く。こうして着いた小さな水滴に気付かず、そのまま残してしまうと、やがてそこにカビが発生するのだ。

カビを取り去る
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ST−135mmF2.5  1/30 f2.5

 カビが無事に除去できたので、早速にテスト撮影をしてみよう。

 日曜日の昼過ぎに雷雨があった。にわかに薄暗くなり、雨が降ってきたと思う間に、激しい風と共に大粒で横殴りの雨が激しく降ってきた。雷鳴を伴った風と雨で、ちょっとした嵐のようであった。だが、夕立であったようで、暫く激しく降ったと思ったらふいに雨足が弱くなって、やがて止んでしまった。

 雨上がり後の神社へ行ってみた。氷川神社の拝殿は銅板葺きだ。緑青が噴いていて趣がある。その屋根が雨に打たれて美しく光っていた。あたりは、少し暗かったが、開放F値が明るいので、手持ちでもぎりぎり撮影が出来た。

 写真を撮ったボディは<Ist−D>なので、<K10−D>と違って手振れ補正の機構が無い状態だ。下の写真はシャッター・スピードが速いので大丈夫だが、上の写真はISO200の感度設定での1/20秒や1/30秒であって、手持ちでの限界スピードだろう。詳細に見れば「手振れ」をしていると思う。でも、こうした悪条件に開放F値の明るいレンズはやはり重宝する。日中とはいってもあまりよい条件ではないが、60年代後半の落ち着きのある発色だ。最近のレンズの特色になっている抜けのよさや高コントラストなどが無く、解像感が高くない写りだが、返ってそれがニュートラルな色の感じと落ち着いた雰囲気を出しているのだ、と思う。

 気持ちが安らぐ描写だ。
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ST−135mmF2.5  1/180 f2.5 ST−135mmF2.5  1/350 f2.5