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カメラ;
PENTAX LX
1980年発売 (以来、2001年の生産終了まで21年に渡る超ロングセラーを続ける)
(ボディ価格:125,000円 当時の小学校教師の初任給は122,000円 ホンダプレリュード 1,400,000円)
レンズ;
SMC PENTAX Aシリーズ (バヨネット Kマウント 小型軽量化)
シャッター;
縦走りメタルフォーカルプレーンシャッター(1/1000秒、ストロボ1/125同調)
露出モード;
中央重点全面測光(IDM ダイレクト測光システム)
プログラムAE、絞り優先AE、シャッター速度優先AE、マニュアル
サザンオールスターズの「いとしのエリー」や、ぐっと渋いところでは千昌夫の「北国の春」がヒットしたのがこの年だ。
「ボディ価格」とは、ファインダー「FA−1」(後で説明する)を着けた状態のボディのみでレンズなし、だから結局写真が撮れない状態だが、そうした中途半端な状態においてさえ、小学校教師の初任給の一ヶ月分を丸ごと投入してもまだ購入予算に足りない。そうした意味では世間の常識から隔絶した価格設定。まるで、発売当時のSPのような状況だ。
高度経済成長前の60年代、「写真機」はすこぶる高級品であり、一世一代の買い物であったと思う。時代は遥かに下っていて、もはや「写真機」などと大仰に呼称するものではなくなって普通の生活用品と変わらなくなったと思う。70年代の「使い捨て」を経験した後、耐久消費財自体が熟成した時代が背景にある。80年代はカメラに関してもそうした風潮があり、もはや高級品という意識はどこにも無いが、そうした状況の中にあって、このカメラは間違いなく高級機に位置付くものであった。通常の製品とは明らかに一線を画す印象があったのだ。
今の我々の感覚から、値段だけを考えるとなんだかとても高いような気がする。だが、投入された技術を考慮すれば、そのコストは投資するのに充分だ。実現される機能を評価すれば、むしろ納得できる価格設定だと思うのだ。
ただ、誰もが買えたかというとそうではなく、やはり価格的には「高嶺の花」であったに違いない。私など、発売発表の遥か後、20年余り経ってやっと買うことが出来たのだ。常に憧れのカメラであった。
往年のトヨタのコマーシャルで「何時かは、クラウン・・・」というのが流れていたが、まさにその感覚世界だ。ペンタックスのユーザにとっての「何時かは、クラウン」が、<LX>と名付けられたカメラが持っているポジションなのだ。
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新品で購入した<MZ−3>を「委託販売」として<LX>の購入資金の一部にあてたとき、カメラボディを買うのもこれが最後だろうと考えていた。そう思ったのは<LX>の生産終了予定のニュースが流れたからで、機械制御の技術蓄積も終わりとなるような気がしたためだ。
Mシリーズのシステム性は当時としては群を抜いていたが、それらの資産をすべて引き継いでオールラウンドの過酷な性能が要求されるプロの利用(寒冷な極地や電池補充の出来ない僻地や砂塵舞う砂漠地帯など)までも視野にいれて開発されたのが、この名機<LX>なのだ。
耐久性の高い金属性の外装、何箇所にも施されたシールドによるボディの防滴防塵構造、極点でも利用できる耐寒性、電源がなくても切れる機械制御のシャッター(1/60以上の高速側がメカニカル制御、それ以下は電子制御でAE時は最大125秒までの長時間露出制御が可能)など、他に例を見ない優れた機能を備えている。
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基本機能の徹底振りだけではない。その最たるものがカスタマイズできるファインダー・システムだ。
フォーカス・スクリーンは勿論、各種の交換用のタイプが多彩に用意された。接写や望遠用、天体撮影、開放F値(明るいものや暗いもの)を考慮したもの、など十数種類に及ぶ各種スクリーンだ。
しかし、それだけではなくプリズム部分を含めたファインダー・ユニットごと、用途に合わせて交換が出来る構造をこのボディは持っている。(視野率や像倍率は、各ファインダーによってそれぞれ異なる。)
ロングアイポイントを持つスポーツ・ファインダー、複数のアイピースを持ったアタッチメント型のファインダー、視度補正量の異なる複数の標準ファインダー、ホットシューを省略し軽量化した懐かしい三角屋根のプリズム、垂直に像面を見る折り畳み式のファインダー(プリズムがなくピントグラスを直視する仕組みなので左右が逆像となる)、など非常に多彩だ。
メーカー作業での置き換えではなく、ユーザの手で簡単にいつでも付け替えられる世界が実現された。ボディ購入後(2001年)にそのいくつかを集めたが、多くは生産中止の上、(安価ではないのに)各販売店ではボディの販売終了がアナウンスされたため瞬く間に在庫切れとなってしまった。だから、私が持っているのは足で稼いだデッドストック品と程度の好い中古品だ。
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<LX>のシャッターユニットは、基本的には<MX>と同じ横走りの幕式だ。
ただし、ゴム引きの布幕ではなく、ドット模様が施されたチタン幕によるものだ。シャッター動作中でも有効に測光し制御を続ける、ボディ底部に仕込まれた独自のダイレクト測光の機能と極寒冷地でも凍結しない性能のための選択だ。シャッター全開状態ではフィルム面からの反射光を捉えて光を演算する。動作中はフィルム面とドットが施されたシャッター面の反射光で、最大125秒までの連続測光が出来る。(<LX>に対応した自社製ストロボでは、その発光量もこの正確な測光制御の一部として調整される。)
ちなみに、このような測光精度を持つカメラはいまだに登場していない。
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<LX>を使っていて素晴らしい機能性が実感できるのはそのファインダーだ。先に書いたように各種タイプへの交換が可能だが、私はストロボを使う機会が殆どないので、すっと着けているのはホットシューの無い<SP>のような山形の三角屋根のプリズムだ。しかも、これだと若干の軽量化となる。
2000年ミレニアム記念モデルが限定発売された際に改良されたフォーカススクリーンが、後に単発で発売された。「ナチュラルブライトマットスクリーン」がそれで、ピントもボケ具合も共に判り易い。なにより一段分くらいファインダーが明るい感じがする。元々の標準スクリーンもクリアーな視認性を持っているが、この新しいフォーカススクリーンに付け替えるとグレードが上がりさらに見やすくなる。
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ワインダーとモータドライブが用意されている。
どちらも重たくなるので使っていない。このカメラでは、むしろ「手巻き」での操作がお勧めだ。フィルム巻上げと撮り終わった後の巻き戻しの感触が素晴らしい。ベアリングを多用していて、操作が滑らかで、しかも適度なトルク感があるのだ。
歯車の機械的な精度がよく、巻き戻しクランクで任意のコマ表示まで戻すと、その指定コマで多重露出が出来る。 一般に見かけるカムで制御するような形式(今撮ったコマを送らずにシャッターだけをチャージして多重露出とする)ではなく、前に撮った任意のコマ位置にクランクで巻き戻す。すると多重露出が出来るというものだ。、ぴたりと戻って寸分のずれもないところが、なんともすさまじい。
私などは物覚えがあやふやになりつつあるので、数コマ前のフレーミングを鮮明に思い出すこと自体が出来ない。だからせっかくの技術プレゼンスも利用したことが無いのだが、多重露出を利用するかどうかはさて置いて、この機能は巻上げと巻き戻しの機械精度の高さの証となるものだろうと思う。
このあたりの精度の高さが、このボディのメカとしての深い信頼に繋がるのだ。
さて、露出。
<IDMシステム>という名称が付いた「ダイレクト測光」によって保障されているが、中央重点測光なので露出におけるマニュアル補正は必須作業となる。画面の明度自体はもちろんだが、色の傾向でも補正が必要だ。
ラチュードの広いネガフィルムを使うのであれば、さほど神経質にならなくても大丈夫であり、すこしズレてもプリント時の補正を指定することで救済が可能だ。
ただ、このカメラを使おうとする場合、やはり気に入ったリバーサルフィルムを携えて出掛けたくなる。だから、露出補正の必要性を理解してしっかりと勉強しておく必要があるのだが、補正しなければ本来の色が出ないという面倒さがリバーサルでの撮影の楽しさでもある。ライトボックス上のスリーブをみてびっくりということも何度かあった。多分割測光などの評価測光的なもの(ニコンのRGB評価まで行かなくても良いが)では、シビアさの加減も若干は弱まる。<Z−1P>などでは分割測光でのプログラムAEに半ばお任せとするか、よほどシビアな光ではスポット測光で複数個所を測光してマニュアル露出するか、で対応するが、ほぼ命中という感じだろうか。<LX>ではZ−1Pのようにはうまくいかず、やはりこまめな手動での露出補正が前提となる。
そうした緊張関係にあるので、<LX>を道具としてみた場合、まだまだ使いこなすという域には達していないようだ。
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