彼岸花はもともとその毒性を持った根の存在によって、人の手によって田の脇などに植えられた。農作物を野性の小動物(野犬や狐や狸、モグラなど)から守る意味合いからだ。火葬が行われる前時代の農村部では、さらに田畑の脇や裏山などにあった墓所の結界としてもこの花は積極的に植えられていた。そうした、墓所と重なったイメージが強いためか、何となくこの花を忌み嫌う向きもある。
今となっては、村はずれの墓所などはすっかり整理されているので、見かける事もない。そのためか、今となっては、この花の咲くフィールドは田畑の脇か河原の土手筋などになっている。都市部では田園地帯を探すのが難しいのだが、この花を身近に楽しみたいためだろうか。最近は公園の木立の中に列を作って植えられていたりする。
さいたま市にはその南部に実に広大な「見沼田んぼ」があって、そこへ行けば田の畔をにぎやかに飾るこの妖艶な花を楽しめる。
「見沼田んぼ」の周辺、東縁と西縁と続く水路脇に遊歩道とも呼べる道路が走っている。それは自転車専用道路であったり、散歩道であったり、市民憩いの小径として整備されているのだが、そうは言っても地元の車が入ってくるので、油断はならない。
この道は長い桜並木になっていて、花の時期には淡い桜色の花弁が道を覆い、美しいアーチを作る。例えば、大宮公園のさらに北にある自然公園から自転車で走ると、さいたま新都心の裏手を抜けて浦和、さらに川口や戸田の手前の東浦和まで、こうした散歩道を伴った桜並木がずっと続くのだ。
その染井吉野の木の根元にそって彼岸花が植えられている。気の早い何枚かの葉が色付く桜の黒い幹の脇で、華麗な緋色で燃える様に咲く彼岸花の様子に心を打たれて、去年はこの道をポタリングしたのだが、今年はそうした楽しい機会を逃してしまった。
|