ところで、私は大学生の頃に「駒込(こまごめ)」に住んでいた。
駒込といっても山手線の内側の、お屋敷町の雰囲気が残っている上品な方の街ではない。山手線の外側、染井(そめい)や中里といった昔から鄙びた地区だった町並みのほうである。だからその街は活気にあふれていて、下町そのものといってもいい温かい雰囲気に溢れていた。
その当時の駒込には下町気質が随分と残っていたように思う。街の商店主や女将さん達の気風もそうだったし、住んでいた人達の生活観もそうだった。向こう三軒両隣は勿論のこと、町の一角のご近所同士といった人達が仲睦まじく、実に良く結束していたのだった。
その当時、たとえば学生だけが住んでいたアパートなどは、どこもみな昔話でみる漫画家達が寄り添っていた「トキワ荘」そのものの感があって、共同体のような連帯感があった。そうした雰囲気やある種の熱気のようなものは、若い学生だけでなく私が居た終戦直後から建っていたと思われる古いアパートなどにもあった。まるで落語の長屋の住人の世界のような寄り添った暮らしぶりが、日常のひとコマとしてそこにあったのだ。
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