<デジタルアンプ ONKYO A−933 の再生音>
デジタル増幅の回路を搭載しているのに、実のところ、このアンプには「デジタル信号」に対してのダイレクト入力(さらにはデジタル出力まで)が設けられていない。
その代わり、プリ・アンプ機能を殺した、『MAIN IN』の接続端子を持っている。要するにこの機器は、デジタルアンプとしてのパワーアンプを基本的な構成として煮詰めて、そこにプリアンプ機能を搭載したという開発構造なのだろう。
だから、単品のパワーアンプとしても充分な回路設計がされ、パーツ吟味が行われて、頑丈でノイズレスの筐体仕様を含めた各種のチューニングが凝らされている。完成度の高いデジタル・パワーアンプ、それにプリアンプ機能が付きましたといった性格がこのアンプの持ち味なのだろう。
CR−D2の再生も素晴らしいが、このアンプA−933から再現される音は、それとは別次元の秀麗な音が出る。
たとえば、ピアノの後ろで弾れているベース。若いころ何度も行った新宿界隈のJAZZの老舗ライブスポットで聴いた「響きの密度」がそこにある。弦の唸りというか、厚みや奥行きといったもので、私の表現が稚拙でうまく言い表せないのがもどかしく思えるが、流れ出す密度の高い音の内容は、なにものにも替え難い重厚な存在感があるのだ。
ピアノにしても同じだ。弾かれた弦から厚いボディへ伝わる響きまでが感じられるし、鍵盤へ加えられる部妙な指のタッチまでが見えるようだ。
アキコ・グレースのアルバム、「From OSLO」はスタンダードなピアノトリオで奏でられる名演だ。CDリリースの5作目にあたるアルバム作品で2004年の録音だ。ピアノトリオのメンバーは、ラリー・グレナディア(b)、ヨン・クリステンセン(ds)。
これなどを再生すると存在感に溢れた素晴らしい音の波が溢れてくる。
たとえば、「Woltz For Debby]といったスタンダード曲も素敵だし、7曲目の「Peace, Searching For」、さらにはクラシックの名曲「Solveg's Songs」などを聴くと、あまりの再現性の豊かさにもう涙が滲んで来るほどの感動をもたらしてくれる。
彼女の持つ繊細な音楽性と骨太の演奏テクニックが、ストックホルムのスタジオの空気感まで含んで、遺憾なく再現される。
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