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オーディオ : スピーカー・エンクロージャーを作る
小型バスレフ

<8cmユニット用バスレフ・スピーカーを自作する (2008.06.29) (2008.08.10塗装部分を追記)>

 折角作った真空管アンプの音をもっと鮮明に聴くために、アンプにあわせてスピーカー・エンクロージャーも自作したのだが、さらにもう一つ新たな<箱>を作ることにした。

 「TU−870」という魔力溢れるパワー・アンプを作った人の多くは、忘れかけていた「自作の喜び」に目覚めてしまい、顛末として、さらなるアンプ作成や改造、そして音の出口であるスピーカーの自作へと突進しているようだ。 と、アンプ自作のパーツ交換のページで書いたのだが、私もその例に漏れず、まさしく魅惑の世界の虜となってしまったようだ


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SA/F80AMGをダブルバスレフへセット SA/F80AMG

<評判の8cmユニットでスピーカーを自作する (DIY−AUDIO製 SA/F80AMG について)>

 先のダブルバスレフ・エンクロージャーは、台湾のスピーカーメーカーのTB社(Tang Band Speakers)製の8cmフルレンジ、「W3−593SG」をユニットとして想定して作成したものだった。そして、アルミ・ダイキャスト製のマウント・フレームが同一なので、そのままの状態でDIY−AUDIO社製の「SA/F80AMG」に付け替えて愉しむことが出来る。

 本来は、あの箱で色々とユニットを付け替えながら音の色の違いを楽しむつもりであった。ところが、業が深いというかなんと言うか、「欲」には勝てないものらしい。ユニットの特性に合った箱で鳴らしたらどんなに素晴らしいだろう、との思いが消しがたく浮かんで来るのだ。そうした思いに打ち勝つことは出来なそうだし、そういう状態でいる事は精神衛生上どうなのか、と思われる。

 物に負けない強い意志、は確か「本日の反省」での年頭目標であったように思うが・・・。あの時の決然とした意識は、いったいどこへ消えてしまったと言うのだろう。

 というわけで、結局のところ、やはりユニット専用の<箱>を新たに作ることにしたのであった。
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<容量4リットル、バスレフ形式のエンクロージャーを設計する>

 今回の設計はオーソドックスな「小型バスレフ」形式だ。

 コーン形状のスピーカの場合は、コーン部分が前後に振動している。ユニットの前面と同じく、背面側でも盛んに音が鳴っている。その背面振動を、箱に開けたポートから外部に送出する仕組みが「バスレフ」という形式だ。

 箱に用意された「ポート(バスレフ・ポート)」は低域の音の増加が第一の役割だが、それとは別の働きも担っている。私の箱では、こちらの方が主目的だと思うが、エンクロージャーの内圧を下げてユニット動作に対する空気抵抗を減らし、有効な運動量を確保する、というものだ。今回設定のスリットなどは、どちらかと言えば低域の増幅という働きよりも、機能的には後者の理由による部分が大きいだろうと思う。


 このユニット「SA/F80AMG」に関して言えば、基本性能が良いので、元々備えている広い周波数特性と強力なマグネットによる運動能力を活かして、変に低域を増幅しない方が、素直な良い音が響きそうだ。

 バスレフ・ポートの形状をどうしようか、と考えたが、結局、また「スリット形式」のダクトにする事にした。パイプ形式を選ばなかったのは、工作の都合だけの理由だ。御用達の店に行けば、長さや口径の違う専用のパイプ形状の各種のポートが販売されている。そうした専用の既製品ではなく、塩化ビニールのパイプを切って利用してもいい。いろいろと選択肢はあるのだが、どうもあの円形のダクトに違和感があり、敬遠してしまう。

 リア・ポートという仕様が市販のメーカー製バスレフ・スピーカーの時流だが、あの背面から音がでる、というのがイヤなのだ。天板や底部分にポートがあるものもいくつかの自作例が紹介されているが、やはりポートはバッフル面に着けたい。皆さん、そうは思いませんか。

 なるべく違和感の少ない外観、と考えると「ひっそりと用意されたスリット」、という選択になってしまうのだ。しかも、後背面ではなく、バッフル面にさり気なく、しかし堂々と、だ。


 では、前回お世話になったポート設定シミュレーションのソフトを、今回も設計に利用することにしよう。

4リットルのバスレフ

クリックにて拡大します。
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<バスレフ・エンクロージャー用の板取り>

 前回選んだ「ニュージーランド・パイン」だが、なかなか木目が美しく、音の響きも良いし、加工が楽という、実に自作向けの優れものであった。そこでまた、今回もこの板を利用することにした。

 販売されている規格サイズを基準にして、効率の良い板取りを考えるのも、前回と同じだ。14mm厚の板材として910mmや1800mmの長板の状態で規格されているが、今回は「1200mmと600mm」の板材を使うことにする。

 板の小口部分がエンクロージャ表面に来ていると、これが案外に目立つ。臍を切って板を組み合わせたり、箱の角になる部分を斜め45度にして板同士を張り合わせたりが出来れば目立たなくなってよいのだが、素人にはどちらも難しい加工だ。前回作った箱は、四角柱の開口部を天板と底板で塞いだ箱構造なので、上から見下ろすと天板の四辺に小口が来る状態だ。右下の写真のような状態だ。こうした板目も自作の味であるし、小口部分は塗装をすれば思ったほどには目立たなくなるだろう。そうは思うが、見慣れないせいもあり、少し気になってしまう。

 このため、今回は、天板を前後の板で支える形状とした。その上で天板の小口がバッフル面に来ないように、板目を横でとる事にした。天板の木目が箱正面に対して前後方向ではなく左右方向となる板取りだ。

天板とバッフル面の工夫(寝かせてあるので、左が天となる)
天板の木目の工夫
前回製作した際の天板(木目の状態)
前回製作した際の天板(木目の状態)

板取り <板取りの図面>

クリックにて拡大


バッフル用の板であるが

600mmからよりも
910mmの板材から取ることをお勧めする。
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板取り

 1200mmの板から天板部分を取り、残りを1/4に切り分けて側板とする。長辺から250mmを取り、2分するのだ。残りは950mm−切り代となるが、これを切り代を考えて4等分する。残りの部分の4等分化は両断(1/2)を2回繰り返すといいと思う。そうすれば、間違いなく1/4化される。この板の幅は200mmなので、123(±切り代)*200mmが2枚、235(±切り代)*200mmが4枚取れることになる。

 次はバッフル板だ。前回同様に250mmの短辺側を両分して123+αmmとした。実際には、鋸での切り代分の厚みがあるが、先の天板の250mmからの2分割と同じなので、横幅は一致するはずだ。185mm、220mmと取って残りをバッフル板として加工する。だからスリット幅は、切り代で若干変わってくる。

 バッフル用の板を600mm長のとせずに910mmの板材を利用する場合は、こうした心配は要らない。バッフル板はしっかりと195mmとして切り出して、余る残り部分はエンクロージャー内部のスリット板や補強板として利用すればよい。100mm、70mm、40mmなど数種類のスリットを作って調整に利用すると良いかもしれない。スリット決定後、実験に使った残りのスリットは補強桟として内部に接着して利用してしまおう。


 これも前回同様の注意となるが、最終的な組立では現物合わせでの「削り整形」による調整が必要だ。

 ・横200mm縦1200mmの板の長辺から、まずは250mmを取りそれを半分に切断して天板とする。
 ・残りを4等分し側板を取る。想定では縦が235mm前後となるはずだ。

 ・横250mm縦600mmの短辺側を半分に切断して、バッフル、底板、裏板を取る。
 ・別に、空気室を作成するためのスリット板を左右分用意する(123mm*40〜100mmの間で調整)。
 *あるいはこれを縦910mmの板で取る。
  そうすれば、規定どおり185mm、220mm、195mm、が取れて、
  さらに100mm、調整用に70mm、40mmなど複数のスリット材が取れる。(こちらがお勧めだろう)
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長さ不足の底板 底板を手当てする

<ダクトの位置>

 今回作成するエンクロージャのバスレフ・ポート形状は、先に書いたとおり、加工と調整の楽な「スリット形式」とする。

 スリットの幅は、設計では10mmだ。縦600mmの板材からの板取りとした場合、鋸の切り代の関係で、現物合わせで10mmから15mmの間の仕上がりとなるだろう。その違いは、数値シミュレータソフトではfo値が80Hzから95Hzほどの変化になる。バッフル板に当て木をしても10mmに近づけたいところだ。15mmほどの状態となってしまったら、5mmの板材を切り出し、それをバッフルへ継ぎ足して、スリット板は延長したバッフル板の底面に合わせるようにする。

 私のスリット幅は、設計どおりの10mm。なぜかというと、底板を最後に取ったからだ。そのおかげで、底板は切り代の犠牲になり180mmであり、設計より5mm短い状態になってしまった。バッフル面から5mm足りないと、これはやはり目立つ。そこで小口を隠すことも含めて、15*5mmの桧板を切り出して貼ることにする。

 スリット長は、100mm。バッフル板厚とあわせると114mmだ。fo値は高くなってしまうが、力強い低音の張り出しを意識するなら、もっと短くても良いかも知れない。スリット板を100mmだけでなく70mmや40mmでも作成し、組み合わせて音を出して聴きながらそれぞれの長さを比較実験してみることにする。

 この実験を行うには、側板を接着してしまうとどうにもできないので、側板は仮止めの状態とし、実際に音を出して判断することにする。吸音材の量なども同時に調整すれば手間が省けるだろう。
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自作したクランプ 後板の接着

<箱の接合>

 箱の組立は、釘やネジが板面に出ないように、接着材での接合とした。前回は一時間ほど箱に乗って、製作者自らの体重で板を固定し、その後一晩重しをして接合したが、今回は一工夫を加えている。日々、改善だ。

 簡単なクランプを作ってみた。

 全体に「ねじ」が切ってある金属棒を利用したのだ。1100mmの棒から300mmを2本切断し、さらに250mmを2本取った。適当な端材(300mmの杉板で一枚僅か30円!)に穴を開けて蝶ナットで締めこむという単純な構造だ。全部品代しめて300円程で出来てしまった。

エンクロージャー内部 補強桟や補強材、
吸音材、
ターミナル用の加工をした後板、
バスレフ・ポートとなるスリット板、
などが未設定の状態。


ここから、それらを組み上げていく。

 側板の垂直(直角)を確認したら、天板、底板、バッフル、後板と接着していく。

 一枚ごとにクランプ締めを行いながら、圧着する。このときに接着剤の関係で僅かに板にズレが生じる。だから、クランプ締めの最中にズレをチェックしないと、悲しい事態となるので、要注意だ。接着剤は非常に強力で、一時間ほどで硬化が始まる。一時間が経過した後は、まず接着状態であると認識したほうが良い。一度、接着してしまうと、破損覚悟でないと付いた板を取り外す事はできない。

 スピーカー穴の後ろ側は、定在波対策として平行面を無くすためにユニット取り付け穴で切り取った木片を接着する。前回行った補強桟が箱鳴りに対して有効だったので、今回はあらかじめ側板とバッフル板を補強しておく事にする。

エンクロージャー内部 ターミナルのマウント
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<エンクロージャー組み立ての工夫>

 ユニット・フレームのマウント方法であるが、バッフル箱側に「オニメ・ナット」を埋め込んで、留めネジとは金属同士での締め込みを可能にする。こうすると、マウントネジに対して、箱側は木地ではなくそこに埋め込まれた金属製のナットが受けることになる。

 ユニット側の留め具には「木ネジやタッピングネジ」ではなく金属接合用の円柱状のネジやボルトが利用できるのだ。だから、何度もユニットを付け外しても、木がへたってネジが利かなくなる心配が要らない。


 私の場合は、ユニットの付け替え(他のメーカー製の8cmユニットへの置換)やエージング中の調整での取り外し、など、何回もの付け外しを想定しているので、こうした工夫は標準仕様として必要なものだ。当然のことだが、金属用のネジでの締め込みとなるので、バッフル面とスピーカ・ユニットのフレーム部分とは強力な圧着状態となる。振動に対しても有効であろう。

オニメ・ナット スピーカーマウント
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スピーカー側の接続用プラグ スピーカー接続用プラグ

<ユニットの接続>

 スピーカーとの接続ケーブルもユニットの取り外しを視野に入れて、「ファストン端子」にした。これも定番仕様。

 スピーカ・ユニットのターミナルは金メッキ製で、極性によってピンの大きさが違う規格になっている。プラスがMサイズ、マイナスがSサイズだ。前回のW3−593SGでは買い置きの車用電装パーツがあったが、今回は秋葉原で調達したものを利用する。

 「ラジオ会館」にある「インプラス」で購入したものだ。ちなみに、セットではなく一個から「ばら売り」してもらえるのがありがたい。この店は本来カー・オーディオ用の各種パーツが専門だが、真空管アンプ・キットの販売やスピーカ関係のパーツ、さらにはショップ・オリジナルの製品も扱っている。最近規模が小さくなってしまったが、コンデンサーでおなじみの「若松通商」の隣にある。

ターミナルへのコネクター ターミナル
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 スピーカー・ターミナルは、「コイズミ無線」のバナナ・ターミナル。これへ内部ケーブル(DENONの「AK−1000」)をハンダ(銀ハンダ)付けする。アンプとの間の接続ケーブルは、エンクロージャ内部の線よりも太い「AK−2000」だ。これらのスピーカー・ケーブルもやはり私の定番だ。

 このバスレフ・エンクロージャーは小型(4リットル)なので、ターミナルの形状を変えてみた。円形の埋め込みタイプを選んでみたのだ。後面への張り出しが無いだけでなく、金具が斜めについた形状のため、ケーブルのバナナ・プラグを挿した状態でも張り出す量が少なくなる。

 この円形ターミナルは優れものなのだが、板面への取り付けは少し大変だ。

 20mm程の厚みがある。だから、工作としては、板面に直径50mmの円形の穴を切り抜き、そこにターミナルを埋め込まなければならない。この穴開け作業が大変なのだ。私は「100均」で51mm径の切り抜き用のドリル歯を買って利用した。糸鋸で切り抜くとしたら、大分手間が掛かると思う。見た目は抜群であるが、スピーカーを使っている最中は、裏面なのでめったに目にすることは無い。残念なことに、掛けた工作の苦労は、実は余り報われない。

ターミナル ターミナル
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 この円形ターミナルは、音的には、どうなのだろう?

 前に利用したターミナルは「パネル状」であり、箱への取り付けはケーブル接続用の10mm穴を2個開けて、本体はネジ留めする方式であった。板面に5mmほど溝を掘り込んで埋め込む手もあるが、そのままの状態で着けている。プラグは写真のように直角と水平の2方向から差込が可能だ。

 大型のネジ部分が20mmほど張り出す状態となる。直角方向での留め方ではネジ止めの締め込みとなるので、バナナ・プラグで終端した状態ではなく、ケーブルのままでも良い。このあたりの仕様は、今回の円形タイプでも基本的には同じ。


 この円形ターミナルの取り付けは、スピーカの背面音を直接受ける後板上に50mmの穴を開ける訳だから、音には影響するだろうと思う。少なくともユニット後面とスリット部分からはオフセットさせないとだめだろう。そうした訳で底面から60mmの位置にしたが、面倒なのでやっていないが、余裕があればさらにターミナルの樹脂を木部にダンピングするようにシリコンを充填するなどの措置がよいと思う。

ターミナルへのコネクター 前回設定のエンクロージャーのターミナル

ターミナル
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エコプラス・ユニの登場 内部の補強

<音の調整  (2008.07.05)>

 円形のケーブルターミナルが、後板に大きな穴(50mm径)を開けるので、板面に木片を接着して補強する。上の写真は、上板、側板、後板と補強桟を接着した様子だ。さらに、スリット板には、前板の補強を兼ねた垂直板を接着している。この補強桟は、各板面の共振防止用の補強と共に、定在波を避けるための平行面の防止の意味を持っている。

 今回も、側板を仮止めして何度も同じ曲を聴きながら、吸音材の位置や種類、分量を決めていく事にする。

 内部の吸音であるが、前回活躍した梱包用の緩衝材「エコプラス・ユニ」とティーバックの組み合わせを今回も利用する。ただし、ティーバックはハーブ・ティーにするが、期待をこめて付けた「リラックス・ナイト」ではオレンジベールとカモミールの香りがしなかったので、今回は「ローズ・ヒップ・ティー」のリーフを袋詰めにすることにした。これなら、目論見どおり、音と一緒に香りがダクトから漏れ出すだろう。

 もう一つ、密閉型スピーカーで定番の「グラス・ウール」も利用することにした。音響パーツではなく、建築資材を購入したが、両者は値段が極端に異なるので注意が必要だ。性能的には違いはないと思うので、建築資材の購入がお勧めだ。嘘のような値段で買えるので驚いてしまう。そのグラス・ウールは、ケーブルターミナルの部分を中心に、後板から側板の補強桟の部分までを取り巻く状態で接着することにした。

 スリットであるが、実は」当初の設計状態からは変更している。114mm長であったのを20mm切断し、95mm長とした。fo(最低共振周波数)は80Hzから上がってしまうが、114mmの状態では、バスドラムで変な共鳴がしたためだ。

エコプラス・ユニの登場 調整(音の確認では、側板は仮止めする)
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<箱の塗装>

 今回も、水性の「ウレタン・ニス」を用意した。

 エンクロージャー内部は塗装せず色着けするのは外部だけとするが、出来れば内部をウレタン系の塗料で塗装すると響きが良くなるらしい。ただし、聴いてみて駄目な場合に取り返しができないので、要注意だ。今回のエンクロージャーは小型なので、変化を付けるために側面の色目はウォールナット調、バッフル面はオーク調に仕上げる予定だ。

2008.08.10 追記

 さて、俗に言う「梅雨明け10日」。完全に晴天が保障された期間だ。予ねて考えていた状態で塗装をおこなった。

<第一段階 塗装の前処理(7月13日)>

 塗装前の板面の仕上げは、まず「80番や100番の粗目」で一時間ほどを削る。細かな段差を無くす事と、表面にはみ出した接着剤の剥離を完全にする事の二つが目的だ。だから、接合部分は特に念を入れてヤスリ掛けをする。この段階ではヤスリ台(ヤスリ面が水平面となる様にした簡単な箱形状のもの)を使うと作業が楽。

 段差が気になる部分は、すばやく削るために紙ヤスリでは無くて100円均一で用意した「鉄ヤスリ」を利用した。スキー板のメンテナンス用のダイアモンドヤスリに形状がそっくりな幅3cmほどの板状もの。スキーのヤスリは高価な道具で3000円近かったが、こちらはなんと言っても100円だ。性能差は歴然としているが硬い鉄(スキーのエッジ)部分を精密に削るわけではないので、充分だ。こんなヤスリでもあっという間に板が削れて重宝する。

 こうして出来上がった板面は、まだ粗削りの状態であり、注意して観察すると細かな傷が沢山ある。

 次に「150番と240番の中目」で削る。これも作業は一時間ほどだろうか。しかし、余りの暑さに堪らなくなって、この時点で作業を中止する。手作業なので二時間も続けていると凄まじい汗がとめどなく出る。

 ヤスリ掛けによる塗装の下地造りは大切だ。小さな傷などが塗装後には何故か意外に目立つ。ソリッドカラーのラッカー塗料などで厚く仕上げる場合は、塗料自体のボリュームで表面が平滑になるし下地はまったく見えなくなるから、あまり気にせずに済む。しかし、私のような仕上げをしようと思ったら、この段階の下地造りの作業をおろそかにしてはいけない。

 シャワーを浴びて、水分補給だ。板目の手触りを楽しみながら飲むビールが格別だ。

 作業効率を考えると、電動のハンディタイプのサンダーなどが用意できれば最高だ。あえて購入するまでも無く、ホームセンターによっては「レンタル工具」として一日僅か300円ほどで貸し出してくれる店もある。作業後のビールを考えて私は手作業としたが、その判断は熱中症すれすれであって、真夏のヤスリ掛けは少し危険であった。
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エンクロージャーの塗装 一回の塗装後にヤスリ掛けをし、
板面を平滑に整える


塗装
〔写真は最終塗装前のヤスリ掛け)

<第二段階 塗装 ― 下地を作る(7月20日)>

 まず、用意した水性ニスを良く混ぜる。 色を均一にするための準備だ。

 私の箱は小さい(W150 x D200 x H230)ので「40mmの刷毛」を使う事にする。

 最初の塗装は二時間ほど乾燥させてから「二度塗り」を行った。そうすると上の最初の写真のようにピカピカ艶のある状態になる。〔写真自体は何回目かの塗装後のもの)

 作業してみてわかった事だが、最初の着色は板の一面を手早く塗装する必要がある。なるべく刷毛をつけたら一気に一面をくまなく塗ってしまおう。「色むら」は塗装を重ねる事で修正できるが、割と大変な手間になる事が判った。だから、本当はもう少し幅のある刷毛を用意したほうが良かったように思う。

 選択した「ウォールナット」であるが、思いのほか色目が赤いし、それに想像より濃いのであった。最初のひと塗りで、あれっという感じがした。随分、思い描いていたイメージと実際の塗装をした箱の様子が違う。塗ってしまったのでもう後には戻れないが、そういった踏ん切り(思い切り)のためにも、最初の塗りは一気にしてしまう方が良かろう。

 塗装した実体とイメージしていたものに違和感があると言っても、一応は事前に木っ端でテストとして塗装して確認している。「一度塗ったらもう最後」という事は、実は作業前からちゃんと想定していたのだ。エンクロージャーに利用したのと同じ松材(ニュージーランド・パイン)の板切れで確認した時には「よしよし」と思って満足したのたが、塗った後の箱の様子をみると大分印象が変わる。全体に色も艶も濃いように思うのであった。

 板の素材が集成材なので、ほぼ40mm幅ごとに木目が異なるものだ。白木の状態では、この差異が目立たずに気にならなかったが、着色すると40mmごとに塗料の吸収率が違うようで、色むらのように感じてしまう。この辺りも、塗装前には想像できなかった部分だ。それに艶があって、しかもテカテカとしていて品が無く、妙に派手なのだ。
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エンクロージャーの塗装 色むらの修正を兼ねて、塗装後の板目を整える

塗装の色ムラ

<第三段階 塗装 ― 仕上げる(7月27日)>

 一回目の塗装の翌週、下地のヤスリ掛けから数えると三日目の作業だ。

 今回は下地として塗装した状態から、仕上げの作業をする。「下地」とはいっても二度塗りをしているので、それで終了でもよいと思う。まあ、この後の作業は自分を納得させるためだ。だから、確認あるいはダメ押しのようなものだ。

 一週間置いて落ち着いた塗装面を「仕上げ用の紙やすり」で削って、色むらを修正し、板面をさらに平滑にする。そのため、まず「240番」のヤスリで塗装面を削る。

 先に書いたように私の箱材は集成材のために、集成板の40mmほどの幅ごとに色の浸透濃度が違う。一度目の塗装ではそれが目立っていて、ヤスリで削った上の写真でもそれが良く判る。できれば、これを均等に表現したい、と思っている。それに、ニス仕上げをしたとはいえ板面は微妙にざくざくした感じで、少しザラついている。

 このため、「240番の中目」から、さらに「340番や360番の仕上げ」用の紙やすりで全体を削る。「なめし」のような作業だ。作業した日は数日続いた猛暑日の中の一日で、最初の研磨・塗装と同様に凄まじい暑さであった。

 一時間程削ってアイスを買い出しに行って休憩し、その後、仕上げのヤスリ掛けをやはり二時間(もちろん、小休止を何度も入れての作業だ)ほどしてから、二度目の塗装を行った。
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<第三段階+ 塗装 ― さらに仕上げる(8月3日)>

 そして、また一週間ほど乾燥させて、前回の作業を繰り返した。工程を並べれば、最初の塗装、研磨、再塗装、研磨、再々塗装、と繰り返した訳だ。

 ただし、最後の研磨はシュクシュクとヤスリを動かす作業に飽きた事もあり、20分ほどであっただろうか。なにせ暑さが凄まじく、もうイイや、という気分になってしまったのだ。

 こうして仕上げの塗装をした状態が下の写真だ。写真では旨く表現できていないが、色に深みが出たように感じる。こうして自分で塗装してみると、メーカー製の気合の入った小型スピーカーのカタログに出ている、たとえばDENONの一枚板やビクターの素敵な桜材とかパイオニアの樽などの天然木スピーカー・エンクロージャーの仕上げ塗装などの世界は、やはりすごいものだなと思う。

エンクロージャーの塗装

塗装・研磨などを手作業で行ったが、
それぞれの作業には実に強力な助っ人が存在していた。

お陰で、私は熱い作業にも関わらず、熱中症にならずに済んだようだ。
手作業の助っ人、強力。
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<第四段階 塗装 ― もう一度、仕上げ(8月10日)>

 さて、最後の塗装が終わった翌週だ。だから塗装の行程でいうと四週目の作業で、五日目となる。

 塗装自体は三回終わっている状態だ。それぞれに二度塗りし研磨しているので、かなり平滑になっている。今回はその塗装面の派手な艶を押さえる作業だ。そして塗装作業はこれで完了にするつもりだ。

 猛暑日が続いた中での手作業での「ヤスリ掛け」や「塗装」はキツイ作業であった。暑かった作業の後の夕方に凄まじい雷雨があり、その後は多少涼しくなった日もあった。そんな日は余分におつりを貰ったような、少し得した気分が味わえたのであった。真夏に夢中でヤスリを動かした日として、このスピーカーを見るたびに思い出すような気がする。

 私だけではない。良く作業を手伝ってくれたが、ヤスリで板を擦ったときの手の熱さや暑い日の滲む汗など、作業中の感覚を伴った明確な記憶として、子供の中にも何かが残るかもしれない。


 さて、塗装・研磨と続いて、ほどほどにイイ感じになってきた板面であるが、最後に「艶消しニス」のスプレーを塗布してセミグロス仕上げとする。これで、派手にテカテカしていたエンクロージャーが少し落ち着いて、印象が大分良くなるはずだ。

エンクロージャーの塗装

エンクロージャーの塗装
完成
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出来上がりの状態

<塗装後の音の印象>

 仕上げの塗装が3日に終わったが、最初の塗装からは数週間経っていて塗料も木地に浸透し、ウレタンも硬化した事と思う。さらに日を経れば状況がまた変わるかも知れないが、音も落ち着いてきたので、その感想を書いてみよう。


 まず、塗装して変わったのは響きだ。何故か理由は良く分からないが、低音が増強された。スリットから出る音圧というか、空気圧が増えているのだ。この辺りは、どうした訳であろうか。板の接合面が完全に目止めされたせいだろうか・・・。

 そして、高域に伸びが出た。

 チェン・ミンの二胡の音の響きが深くなった。「MOON-月亮心〜」というアルバムだが、一皮剥けたような瑞々しい音になった。

 また、Eddie Higgins Trio のアルバム「Bewitched」は完璧なスタジオ録音の名演奏であるが、ベースやドラムが良く響いてライブ感が増した。もちろん、主役のピアノの音も臨場感に溢れる。


 色の是非はさておいて、「塗装」自体は音の再生に対しては、実にいい影響が出たようで安心している。

 あまり心地よい音なので、ライブ盤を聴いたらどんな雰囲気の音が鳴るのだろう。なんだか楽しみになって、1m少し位の間隔で左右のスピーカーをセットし、私も同じくらいに座る。いわゆるニア・フィールドの設定で試してみることにした。

 Ann Sallyのアルバム「Hallelujah(ハレルヤ)」を聴く事にした。二曲目の「Misty Roses」での伴奏(他の曲でもそうなのだが)はギターだけだ。アコースティックのギターと控えめな男性ボーカルのスキャットが入るが後は彼女のボーカルだけでバンドの伴奏は無し、という構成だ。次の美しい曲の「I Wishi You Love」でもアコースティックのギターだけが伴奏で、こんなシンプルなステージという事を忘れるほどの豊かな響きだ。目を閉じるとスピーカーの間で、だから私の直ぐ前で、彼女が歌っている。自然な歌声が美しく響く。会場の残響やライブの臨場感はあまり感じないが、それはこのアルバムの録音の傾向によるものだろう。

 音の印象とは別の話になるが、この人の歌う、実に味のある「蘇州夜曲」を聞いて一遍でファンになってしまった。アルバム「ハレルヤ」はライブ録音が多いので普段の彼女の歌が聴けるが、スタジオ盤に比べると伴奏の完成度がもう一つという感じだろうか。しかし、アカペラに近い状態でも崩れない素晴らしい歌唱力が楽しめる。

 やさしい済んだ歌声で響く「星影の小径」などが心地よく、日本語の正しい発声や美しい音を大切にした歌い方だ。最近の歌詞の語句(語彙)や乱暴で未完成な歌い方と比較してしまう。そのためかもしれないが、彼女の日本語の歌を特に素敵に感じるのだと思う。少し昔の日本語の歌っていうのもいいな、と改めて思えて来る。

 機会があれば、彼女のアルバム「Moon Dance」を是非聴いてみてほしい。そこには、実に素晴らしい彼女の歌の世界が広がっている。暫くぶりに出会った、ボーカルの名盤。
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