秋風が吹く。春ほどの明るさはないが穏やかな一陣の風だ。
その風を受けてコスモスの花が揺れる。走っているから吹く風はあまり感じないが、目に留まる花の様子で風が見える。川岸にあるベンチに腰を降ろしてぼんやりと葦原を眺めて休む。葦原とは反対側に広がる稲田ではもう刈り入れが済んで、点々と切り株を残して地面に広がる柔らかな土を見せている。
通ってきた小道を覆う桜の葉はまだ色着いてはいないが、周りには何枚もの葉が散っている。そして散らずに枝に残った気の早い何葉かは、もう紅く染まり始めている。
こうして何を想う訳でもなく辺りを眺め、のんびりと休んでいると、ふと現実が遠ざかっていくような気がする。
その感じはほんの一瞬で儚く消えてしまう。
遠い昔、秋の頃の運動会を前にした些細な出来事が心にふっと浮かぶ。そのときの感じだけが、まるでそこで起きたことでもあるかの様に鮮明に蘇るが、直ぐにまた消えてしまう。幾許も無くふと我に返ると、川筋から遠く元気な音楽がかすかに伝わって来る。注意すると聞覚えのある曲で、察するに遠くにある小学校で運動会が開かれていたようだ。
|